剥がれない仮面をつけた君の声 遠くへ響く喪失管を

 

剥がれない仮面をつけた君の声

遠くへ響く喪失管を

 

「軽いね」と彼女は言った。仕事が終わり、疲弊した脳は今すぐにでもなにかしらの糖分を求めている。まるで糸で繋がっているように、回復を求めれば求めるほど、彼女からのメールは積み重なっていった。

「おまえにはわからない。二度と帰ってくるな」

言葉通り受け取れば、それは追加の叱咤の二重苦となる。正直に生きるには、自分にも相手にもそれ相応の能力が必要なのだと絶えず痛感している。

話によると、ご近所さんに調味料を持っていかれたそうだ。ほんの少しだから、と両手を合わし頭を下げる恰幅のよいお隣さんの姿が脳裏に浮かぶ。断っても断っても扉を叩きやってくる。彼女は音が苦手で、扉が叩かれるたびに飛び上がるように布団の中へと頭を埋めていた。

団地住まいならある程度の寛容さが必要。お隣さんには入居時に何度かお世話になっている。それで借りが返せるならそれでいいとも思うのだけど、それとこれとは話が違うらしい。

「二度と帰ってくるな」

その蹴りは、彼女がやったとは思えないほど躊躇のない勢いで腰を打ちつけた。帰宅直後だったが、なくなく外へ。

閉まる扉の鍵の音と、彼女の姿をのっとった者の声が夜道を歩く間中頭の中に響き渡った。

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