線香の先からのぼる煙見て  頭を垂れる百億の民

 

 線香の先からのぼる煙見て

 頭を垂れる百億の民

 

 白い枠にはまったモニターの中で、アイドルの一人が真剣なまなざしで考え込んでいるのが見えた。モニターにその姿は映ってはいなかったが、その人のエピソードを聞いていると、真剣に考え込んでいる姿が脳裏に思い浮かぶのだ。

 その人はすでに事務所を退所し、フリーで活動している。それでも彼が異常な経歴を持っていることは国民すべてが知っていた。

 日曜の日が沈んだ後のことである。バラエティ番組はいくつか放送されていたが、その時は録画の中から選んで見ていた。お腹の中では、小一時間煮込まれたハヤシライスが今度は胃の中で消化されようと形を変えている。妻と並び横になって眺める画面の中で語られるエピソードについ、涙が流れた。

 なんてことはない場面だ。バラエティ番組を見れば、必ず一度は話されるようなエピソード。それでも人が他人を思いやる気持ちに、自然と胸が温かい気持ちになった。

 この気持ちは何だろうと思考を巡らせると、人、という思いが湧いてきた。こんなにも簡単に涙が流れるのは、きっと先祖代々、人を受けついできたからだ。たかだか半世紀ほどの人生でこのような感慨を抱くことはできない。人を見れば、目があり、口があり、鼻があり。喋るのを聞けば、音と理解がやってくる。知れてその程度、肉体を持って得られるのはそれだけなのだから。

 積み重なり、洗練されて、幾億と重なった正道にそのアイドルは重なった。人の営みに触れたのだ。

 歳をとると、過去を思い出すのかもしれない。それもずっとずっと昔からの過去を。その命を覚醒させたのだ。妻に涙を拭ってもらい、私は照れて微笑んだ。

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