風鈴の調べに耳を傾けて 聞いてる内に怒号へ変わる

 

  風鈴の調べに耳を傾けて

  聞いてる内に怒号へ変わる

 

 リンリンとなる風鈴の音に紛れるように、家内の声が台所へと混ざる。空気の振動を読みとって音として聞くというのはすごいことだ。鼓膜がなければ、世界はずっと無音なのだろう。人はそれを音ごとに聞き分けて、コミュニケーションをとる手段としている。

 ただその振動が小さい場合、音は聞き分けることができない。手元では夕食の洗い物や、積み重なった家事が頭の中では「まだー?」と声をあげている。その一つ一つに焦らないように、と伝えつつ、風鈴の音のような声量で呟く妻の言葉に「うんうん」と返事をしていた。

 窓の外は陽が落ちて、どっぷりと暗闇に沈んでいる。昨今は雨や風が激しく、空を行く暗黒将軍のような黒い塊は軍を為して東へと従軍していく様が見て取れた。台所横の窓からもその様子はうかがえ、その隣で回転する換気扇に溜まった埃が石炭でも詰まらせたような咳をひとつ吐き出した。

 振り返ると妻がいた。

「答えろや」

「・・・・・・」

 うんうん、と言っている内になにか返事を間違えたらしい。しょうがないじゃないか。声が聞こえないのだから。かといって家事もおろそかにするわけにもいかない。聞こえないと言えばーー

「私が悪いのか?」

 だめだ。心も閉ざさねば読まれる。心も黙ろう。

 空は曇天、窓には時折雨が打ち付ける。

 心よ、内側から鍵をかけるのだ。

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